ディーゼル車は、排ガス規制の強化が進む一方、少しでも公害を低減させるため
様々な努力が重ねられています。ここでは、「環境にやさしいバス」低公害バス
ついて触れてみたいと思います。
A.低公害バスの開発
昭和61年に運輸省(現 国土交通省)は燃料にメタノールを使用したメタノールバ
スの走行実験を実施しました。これはディーゼルエンジンの一部を改良して、軽油
の代わりにメタノール燃料を使用したもので、NOxと黒煙の低減に効果を示しまし
たが、実用面とコスト面などの問題で実用化には至りませんでした。その後、平成
2年にはLPガス(液化石油ガス)と軽油を併用したLPG併用ディーゼルバスの実
験を実施しました。これは一部の公営バスで在来車の改造により実用化されまし
た。しかし、黒煙を40%前後カットでエンジン性能もほとんど変わらなかったが、
NOxの低減に関しては効果が得られなかったため、その後は普及しませんでした
。翌平成3年からはディーゼルエンジンに発電機モーターを内蔵した電気式ハイブ
リッドバスを日野自動車が開発、平成4年より登場しました。また平成5年からは
三菱自動車が、平成7年からは日産ディーゼルといすゞ自動車が蓄圧式ハイブリッ
ドバスを登場させました。この頃、ハイブリッドバスと並ぶ低公害バスとして、燃料
に圧縮天然ガス(CNG)を使用したCNGバスが登場しています。これはエンジン
に通常のディーゼルとほぼ同じものを搭載し、燃料にCNGを使用します。平成3年
に日産ディーゼルが東京ガスなど3社と共同開発、翌4年に実用実験、平成5年に
はいすゞ自動車も開発、平成8年より実用化が実現しています。また、平成10年
からは三菱自動車もCNGバスに対応しています。
B.アイドリングストップ
アイドリングストップ機能
現在、最も多くの車両に施されている環境対策がアイドリングストップ機能です。
路線バスは都市部を走行する際、信号や交通渋滞などによって運行時間の約半
分がエンジン作動中のまま、つまりアイドリング状態で停車しているといわれてい
ます。この停車中にエンジンの作動を止めて排出ガスを減少させる目的で開発さ
れたのがこのシステムです。バスが停止する際、乗務員がクラッチから足を離す
とエンジンが停止します。走行する際はクラッチペダルを踏み込むと自動的にエ
ンジンが再始動し通常のバスと同じように走り出す事ができます。乗務員が信号
や渋滞などの道路状況などによってスイッチによるシステムを作動か非作動かを
切り替えられるようになっています。通常車両では、エンジンを切ると冷房なども
切れてしまうが、エンジンだけが切れる構造になっています。走行するその時の
道路状況にもよるが、都市部では約5〜10%のNOx低減と燃費の改善効果が
認められたそうです。平成6年にいすゞ自動車がオプション設定、後の平成7年
〜8年には他メーカーにもオプション設定されました。構造的に複雑ではなく、取
り付け費用も比較的安価なため普及しています。近年登場のバスには標準的に
このアイドリングストップ機能が装備されるようになっています。
C.低公害バスの種類
電気式ハイブリッドバス
ディーゼルエンジンに発電モーターを内蔵し、車のブレーキによる制動エネルギ
ーを電気エネルギーに変えてバッテリーに充電します。そして充電された電気エ
ネルギーは発進・加速時にモーターを作動させて加速補助します。発進・加速
時はディーゼルエンジンに電気モーターのパワーが加えられるが、このうちの
約半分のパワーを電気が受け持ちます。このため、発進・加速時のNOxが約
30%、黒煙は約70%の減少で排出ガス低減とともに騒音も抑制し、低公害と低
燃費に貢献しました。平成13年から、モーターを小型化して低床化にも対応して
います。
蓄圧式ハイブリッドバス
電気式ハイブリッドバスが制動力を電気エネルギーとしてバッテリーに蓄えるの
に対して、制動エネルギーを油圧で回収、それを蓄積して発進・加速時に再利用
し、ディーゼルエンジンを補助するのが蓄圧式ハイブリッドバスです。
基本的には主な動力にディーゼルエンジンを使用し、補助的に他の動力を使う
のは電気式ハイブリッドバスと同じです。従来のディーゼル車と比較して、NOx
は約30%、黒煙は約70%の低減を実現しました。しかし、低床化に対応するの
が困難である等の理由で現在では製造が中止されています。
CNGバス
ハイブリッドバスが燃料に軽油を使用するのに対して、天然ガスを燃料にするの
がCNGバスです。そもそもCNGとはコンプレッスド・ナチュラル・ガスの略で、圧
縮天然ガスのことを指します。現在のところ、実用化しているディーゼルエンジン
車の中では環境対策に最も優れており、NOxは約70%、黒煙は100%の低減、
つまり黒煙に関してはまったく排出されません。また、乗り心地面でも騒音や振
動などが改善されているようです。このCNGバスは、CNGガスを蓄えておく高
圧ガスボンベを床下もしくは屋根に搭載しています。ところで、CNGバスは登場
当初、低公害には優れるものの、ガスボンベの材質が鋼製しか認可されてなか
ったため、床下にしか搭載できず低床化が進められませんでした。しかし、平成
10年に高圧ガス保安法の改正により軽量容器の使用が認められ、アルミやプ
ラスチックにカーボン繊維などで補強して軽量化したボンベを屋根上に搭載する
ことが可能となった事に伴い低床化も実現しており、平成11年からは低公害と
高福祉の双方を実現したCNGノンステップバスも登場しています。しかし、車両
価格が従来車に比べて高価な事や燃料補給設備が少ない、燃料充填に時間
がかかる等、問題点もあるようで、バス全体に占める割合が増加するまでは行
政の補助などが必要であると思われます。
HEVバス
ハイブリッドバス、CNGバスがエンジンの力で走行する低公害車であるのに対
して、モーター駆動のバスも登場しています。HEV(ハイブリッド・エレクトリック・
ビークル)バスというのがそれで、構造的には「シリーズ式ハイブリッド」ともいわ
れます。HEVバスは、軽油を燃料とするエンジンを使用するがこのエンジンは
発電用に使われます。エンジンで発電した電気はインバーター装置を経由して
リチウムイオン電池に蓄えられ、駆動用モーターを作動させます。発電用にエン
ジンがあるものの、基本的な走行はモーターで行われるため、従来のディーゼ
ルバスに比べて排気ガスを約60%、燃料消費量も約40%カットを実現していま
す。騒音に関しても、モーター駆動により静かであるといわれます。なお、リチウ
ムイオン電池は床下搭載が困難なため、屋根上に搭載されています。
三菱ふそうが「エアロスターノンステップHEV」として一般路線用ノンステップバ
スの改造扱いで実用化されていますが、現在では遠州鉄道バス、名鉄バスな
ど一部の事業者での採用に留まっています。
また、このシステムとよく似たものに、駆動用にエンジン+モーターとしているタ
イプがあり、こちらは日野自動車が「ブルーリボンシティー・ハイブリッド」として
実用化されています。
燃料電池バス
燃料電池バスは、駆動用に電気モーターを、電源に燃料電池を使用します。
エンジンを搭載していないので、排気ガスも出ないという究極の低公害車です。
日野自動車とトヨタ自動車が共同開発した燃料電池バスは、水素を燃料として
発電した電気で駆動モーターを作動させて走行します。走行時に排出されるの
は水だけという低公害車、というより無公害車といっても過言ではないかもしれ
ません。屋根上には、5本の圧縮水素ボンベが屋根全体を覆うように搭載され
ています。モーター駆動、さらにエンジンも無いため、走行音はとても静かなよ
うです。東京都交通局が平成15年〜16年に営業運転を試験的に行い、平成
17年には愛知万博の会場間シャトルバスとしても活躍しました。しかしこの燃
料電池バス、本格的な普及までには早くて約10年、又はそれ以上の時間が
かかるようです。車両価格がとても高価、圧縮水素補給設備の整備など、
その他にも課題が多く、現在のところ営業運行は行われていません。
DPF装置
新製車ではなく、既存の車両に改造を施す環境対策としては、DPF(ディーゼ
ル・パティキュレート・フィルター)を排気管に取り付けて、排気中の黒煙を除
去する方法があります。DPFは、セラミック微粒子フィルターなどを使用して熱
することによって黒煙、粒子状物質を取り除きます。これにより、黒煙は約
100%、粒子状物質も約80%の除去が可能になっています。東京都ほか首
都圏周辺の各県で有害物質濃度の基準値を設定しており、その基準をクリア
できない車両に対して装着が義務付けられています。また、この条例は地方
から東京などに乗り入れる高速バスなどにも対象となっています。

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